文●株式会社コア取締役/組織開発コンサルタント/公認会計士 蒲池 孝一
【図1】5つの自我
5つに分けられる人の自我、PACモデルの続きです(【図1】参照)。前号で、コミュニケーションの極意は、「入ったところから返す」と言いました。けれども、本音では相手を「OKでない」と思っているのに、上辺だけの言葉を発しても長続きせず「気まずい結末」が待ち受けていると述べました。この原因は心の中の自分と他の人についての評価です。それは自分については自信、卑下、相手については尊敬、否定というような「感覚」です。
この感覚は、人それぞれ、長い時間をかけて作られてきたもので、人生に向き合う態度になっています。【図2】のように、自分に対するもの、相手に対するもので4つの組み合わせがあります。

地位の高い人は、他人との競争に勝って出世していく過程で強い自信が獲得されていきますから、(ロ)になる傾向があります。ところが、(ロ)の上司の下では組織の生産性は低くなります。上司のCP(批判的・支配的なエネルギー)が部下のFC(創造性の源)を圧殺しAC(自信喪失の念)を強くしてしまうのです。そうすると、部下たちの間でも、(ロ)や(ハ)や(ニ)が大きくなってしまいます。皆さんの周りでもそんな光景はみられませんか。
それを、克服するのは、やはり、上司です。
上司のすべきこと。第一は、ここに書いたような人間関係の根本の原理と自分の傾向を理解すること。理解はAの働きです。これがとても大事です。
次は、日常、繰り返されるコミュニケーションの仕方をちょっと工夫することです。
それは、YOU are Not OKの感情を持ったCPから瞬間反応せず、まず、入ったところから返した上、あなたのAを使って、相手(部下)のAに向けた発信をすることです。
「部長、これ以上の拡販はもう駄目です!」と泣いてきた部下(部下はACから上司のNPに向けてきた)には、「そうだねえ、よくやってくれたからねえ」と、まず、あなたのNPから部下のACに発信したうえ(言葉だけではなく、身体でもOK評価を示し)、次には、「だけどどうだろう、この業績だと月が越せないなあ。何か手が打てないか、考えてみたいなあ」と、A→Aの発信をします。A→Aでも、あなたがNot OKの感情を持っていると、冷淡な口調になりますが、情報を集めてよく考えてみようという積極性をあなた自身に向けるかのごとく発信します。そうすると彼のAが刺激され、隠れていた彼のAが動き始めます。ACを使っていた彼にAの働きを促すのです。でも、注意してください。彼がそれでもなおACのままでいたとしても、「ばっかもん!ちゃんと考えろと言っているだろう!」といつものような叱責が出そうな心の動きを自覚して、その場では「うん、うん」と間をとり、場を変えて再度、AからAに向けた発信をするのです。
部下もAから返すようになり、A⇔Aの交流が保てれば、克服は可能です。A⇔Aの交流が積み重なることによって、部下のACにあるIユm Not OK=依存的・自信喪失が徐々に抑えられるようになります。そのうえで、溌剌とやるFCを育てていくことです。
組織を生かすも殺すも上司次第ですね。
エールパートナーズ会計発行:成長企業のための情報誌「グローイングカンパニー」
2010年8月号(VOL 121)より
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