文●公認会計士 蒲池 孝一
前号に続き、自分たちのやり方(その背後にある常識)が環境への適合度を失いつつあるのかどうか、それをキャッチできるような組織運営のヒントを述べてみたいと思います。
【情報は伝わりにくい】
会社の業績を示す様々な経営指標の変化に注目するのは当然のことです。 しかし、大事なのは数値になっていない事実を読み取ることです。その事実を知っているのは、現場を見ている営業マンや品質保証部(クレームは会社と外部環境との接点)でもあります。業態によっては、受付窓口嬢かもしれません。要は、顧客や業界他社の動向を直接的に知ることができる部署の「ちょっと変だぞ」という情報です。
ところが、そういうものはなかなか集まりません。ITを使ったり、いろんな仕組みを使ったりしますが、より一層問題を残します。なぜなら、公式の報告ルートには、「変だぞ!」というような生々しい話は届きにくいのです(注1)。仕組みを作ると、濾過された情報ばかりになってしまいます。もちろん、観察する人自身が、それまでの常識に捕らわれバイアスがかかっているということも根本の原因です。
逆に言うと、この理由をはずせば良い情報は集まります。つまり、・事実だけではなく、いろんな解釈を聞く場を設けることです(注2)。そこでは、根拠を示せ、きちっと調べてからにせよ、と、強調することも危険です。調査に調査を重ねていけばおのずとわかる、というのも常識かもしれませんが、この場合、それすら取っ払って考えることが大事です。
また、・会社の常識から外れている人の意見も尊重します。以前にも書きましたが、反抗する社員は貴重です。全く別の視点を持っている可能性があるからです。
【情報は論争を生む】
情報には「情」と「報」の二つの側面があります。報は事実、情は想いです。コミュニケーションは、事実とともに想いも伝えねばならないのです(注3)。
しかし、そのように「想い」を含んだ情報は、論争を生みだします。「やっぱり変だぞ」という意見に複数の人が賛同すると、互解となります。保守派との間の論争が始まるのです。論争は組織内の混乱でもあります。が、常識と互解の双方が試される真剣勝負です。それがエネルギーを生むのです(注4)。
【トップの役割】
トップは良いコミュニケーションが生みだされる状況を組織内に作っておくべきです。論争を許し、新たな互解の形成を見守るのです。論争には介入してはなりません。
それらの論戦がいよいよ一定の方向を示したなら、それらへの対応を明確にします。採用するのか捨てるのか!採用すると決めたのなら、その路線=常識こそが正しいのだと宣言し、徹底的に浸透させねばなりません。後戻りはできません。
※注1 事実のみを報告せよというのは、多くの会社で常識になっているようです。 注2 「ノミニュケーション」の効用はここにあります。 注3 コミュニケーションとは、まさにこの情と報とをともに交換することです。この訳語を当てた明治の先人は偉大です。福沢諭吉といわれています。 注4 大河ドラマの坂本竜馬にも出てくるではないですか。ペリーの携えた国書の内容を幕府(阿部伊勢守)が全国の大名に公開したことから論争が始まり、有為の人材が生みだされた、と。
エールパートナーズ会計発行:成長企業のための情報誌「グローイングカンパニー」
2010年3月号(VOL 116)より
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