文●公認会計士 蒲池孝一
成功は長く続かないものです。それは全ての組織の定めでもあるようです。ブラウン管テレビ、地下足袋など古典的な例だけでなく、COBOLなどコンピュータ汎用言語の衰退、プロプライエタリィ(注1)政策をとったMacのPC、果ては我が国の保守政治など、あらゆる組織について言えます。
図は組織の盛衰サイクルです。凸型曲線は会社の成果=業績です。業績は環境への働きかけによって得られる成果です。成長するということは、技術や商品、経営の仕方(これらをここでは路線と名付け、直線で表します)が環境と適合していく(距離αが減っていく)ことです。
しかし、時を経ると適合度が低下し(距離αが増大)下降線に移ります。路線1に対する不安が高まります。ここで、新たな路線を登場させなければ成長に移ることはできません。つまり、組織の成長のためには、環境変化を読み取り自社の路線をシフトさせるマネジメントが必要なのです。
その変化のマネジメントを作り出すためには、盛衰サイクルの局面を知ることが必要です。つまり、観察される環境変化(αの増大)が一時的なものか大きな変化の兆しなのかを見極めることです。しかしそれには、現場の様々な生きた情報とともに、経営者のカンを駆使するしかありません。
その上で何をするか。ポイントは二つあります。
成長局面であればさらに強力に路線1を徹底させることです。教育の徹底、守旧派の退治、これが第1のポイントです。
衰退局面だったらどうするか。その時は路線2の芽を育みそれが登場できるようにサポートすることです。これが第2のポイントですが、なかなか難しいところです。
その難しさはまず、路線2の芽とその力(路線1を克服する説得力と担い手の行動力)を見出せるかということにあります。路線2の芽は往々にして路線1のエリート達によって消滅させられている可能性があります(その時はワクチンと同じく外部から注入するしかありません)。もし、彼らエリート達が「うちでは方針が徹底されないことに問題がある」などとこぼしているなら幸いです。路線2の芽とエネルギーが根絶されずに社内に温存され蠢いているかもしれないからです。
路線2の芽は、そもそも、個人的見解(私見)としてしか扱われていません。けれども、そのうち、従来の路線の限界がはっきりしてくる(αが増大→社内に不安が増大→議論が活発)と、賛同する人が増えてきます。そうなれば単なる「私見」ではなく、相互の理解=互解(注2)として新たな路線のもとになるのです。
トップは、いざ時がきたら、それらを一挙に公式に承認し、後押しするのです。これはトップにしかできません。何物をも恐れず路線変更を宣言できるのはトップだけです。前号でも述べたように、ミドルたちは自らの過去の栄光を否定できず、新たな常識の担い手になれないばかりか、それらの登場をも阻みます。トップにとっては、この時期、ミドルエリート退治が課題になることもあるのです。
筆者には、トヨタが今していることは、創業家という権威によってこれまでの反抗勢力=新たな互解勢力を支援しようとしているように見えます。
ここでトップにアドバイス。これまで不良社員、反抗社員とみなしていた社員が、互解の担い手になる時期が来るかもしれません。密かに付き合ってみておくのも面白いでしょう。
※注1 「独占的な」という形容詞。ある組織が単独で技術情報や製品情報を占有している状態を指す。
※注2 相互の理解=互解という。既出、遠田教授の造語
【図】組織の成長・衰退曲線