文●株式会社コア取締役/組織開発コンサルタント/公認会計士 蒲池 孝一
■ コミュニケーションが大事
コミュニケーションが大事と誰もが言います。トラブルがあると、「そりゃやっぱりコミュニケーションが悪いからだよ」と言われます。
まずいコミュニケーションの例です。
ホテルの部屋に入ったら禁煙ルームではなかったので電話でフロントにクレームをつける
客 :禁煙の部屋を予約しといたのに違いますね。
フロント :お客様、事前にそのように伺っておりませんが
客 :そんなことはないです、昨日、電話で予約した時、そうお願いしておいたよ
フロント :当方は承っておりませんが
客 :そんなことはない、言うた
フロント :いえ、こちらではそうなっておりません。ドナタに予約されましたか?
客 :ドナタにだと。覚えとらんよ。とにかくすぐに変えてくれ!
(こんなやりとりがひとしきり続いた後)
フロント :わかりました。少々お待ちイタダイテよろしいでしょうか
客 :ハヨしてくれ!
滑稽ですね。今日、多くの会社では、苦情処理、顧客対応マニュアルを作って、様々なケースへの対応の仕方を教え込みます。馬鹿丁寧かつ誤った敬語による対応はここにあります。
■ コミュニケーションは心と心の交流
こういう滑稽さを解決する道、それがコミュニケーションを学ぶことです。今月から数回にわたって、「ヤッパリ大事」なコミュニケーションを、TA(注1)の理論をもとに考えてみようと思います。
先に、情報には「情」と「報」の二つの面があると言いました(注2)。報は事実、情は想い。コミュニケーションは、事実だけでなく想いも伝えねばならない、と。コミュニケーションは、人の、心と心の交流なのです。
■ 3つの自我状態
人の心は一つではありません。ある時は笑い、悲しみそして怒り、ある時はクールに計算し・・・。そうです、心は、いくつかの部分を持っており(そういう心の部分・状態を「自我状態」と名付けています)、それが、時々にひょいと登場するのです。
TAでは、人には基本的に3つの自我状態があると考え円で表します(図と少々の解説を参照してください)。
【図】人の3つの自我状態
基本的な構造です。個人個人がみなこういう構造を内側に持っていて、それが、場面によって表に登場するのです。
P; Parentの略 親のように規範を持ち、一方で愛情を注ぐ。
A; Adultの略 大人のような冷静さ、分析・計算を担う。
C; Childの略 子供のように自由に振舞い、一方で親に従う。
3つの自我状態をもつ「私」が、3つの自我状態をもつ「他者」と関わる、これがコミュニケーションです。うまくいく交渉、失敗してしまう交渉、誤解を生む会話や、いつも気まずい論争に終わってしまうこと、そんなことを考えていきます。
■ 先のホテルの例の自我状態
さて、ホテルの例はどういう自我状態だったでしょうか。客は「親の自我状態」から話を始めています。フロントは「大人の自我状態」で冷静に対応したことから混乱しました。もしフロントが「えー、ごめんなさい!まちがっちゃったのかもしれません!」と、「子供の自我状態」から返事があったとしたら、客はどう言い返すでしょうか?部屋を取り換えるかどうかは別にして(注3)。
相手に応じて適切な対応を図ることは、自我状態の交流から解明されます。乞う、ご期待!
※注1 TA(Transactional Analysis)は、精神科医エリック・バーンが提唱した心理学・精神医学理論。
※注2 本誌2010年3月号「組織の成長を維持する変化のマネジメント」
※注3 客は、「こうあるべきだ」という思いを持って、相手を非難していますね。これが「親」です。ちょっと明るい「ごめんなさい!」は素直さとともに、従順な気持ちを表します。「子供」のようですね。
エールパートナーズ会計発行:成長企業のための情報誌「グローイングカンパニー」
2010年5月号(VOL 118)より
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