文●マーケティングコンサルタント 中安 康
高度成長時期のように、需要が供給を上回る時代は、作れば売れると言われました。企業も生活者へ商品を供給するというだけで、存在理由がありました。しかし、供給が需要をオーバーする今、他と同じ事をやっていても、ユーザーからの存在理由はありません。結局、価格競争の中で企業収益を悪化させていきます。
存在理由を明確に出来る会社は、成熟市場でも生き残る
製品の優劣で勝負できなくても、購入ユーザーへの丁寧なサポート、情報提供によって収益を維持することは可能です。
例えば、住宅購入は一生に一度なので、販売したらその後のリピートが見込めず、来るのはクレームだけ、ということで極力購入客から逃げるケースが多いのが今までです。
川崎の中堅建築会社で、自社の半径10km以内のみを顧客にしている会社があります。家を建てた後にメンテナンスで駆けつけられる距離が10kmだからです。売りっぱなしの工務店が多い中、自社で家を建てたお客様をずっとサポートする姿勢です。しかし、自社だけではサポートできません。大工さんや左官屋さんや設備工事屋さんなど様々な職種の協力者がいてはじめて可能です。
その為に、毎月、職人たちを集めて勉強会やコミュニケーションを図っています。もちろん、お客様向けにもバーベキュー大会や遠足など毎年様々な催し物を行ない、コミュニケーションを深めています。そこには、自社に協力してくれている職人への尊敬と共に、仕事に対する姿勢をより高めてもらうための教育があります。
そのような姿勢は、購入されたお客様にも伝わります。
お客様へは売り込みでなく、利用するための情報提供を
この会社は、チラシを一切行なっていません。行なっているのは、購入されたお客様の喜びの声(毎月事例集として発刊)と、協力していただいている職人さんたちの紹介がベースのコンセプトカタログです。ホームページでは、次のように紹介しています。
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大工さん・業者さんの質の高さが、イコールその建設会社のレベルです。
大工さん・業者さんたちが実際の現場で良い仕事が出来る環境(突貫工事の廃止・年間通した平準的な受注の実現・キチンとした施工に必要充分な工期の設定等)を整えるのは建設会社の役目です。
それが達成されて始めて腕の良い職人さんたちが協力してくれ、高い技術を存分に発揮できるのです。
タマックにとって大工さん・業者さんは宝です。
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過去にご紹介した、ネッツ南国(四国)、ザッポス(アメリカ)は、購入されたお客様へのサポートを第一に置き、社員のモチベーションとモラルアップを行っています。
お客様が求めているのは、製品の優秀さだけでなく、購入した後のケアであり、利用するための情報提供やサポートです。
市場が拡大しない時代、その事に気づき真摯に実践している企業が、これから必要とされる企業です。「企業側は、購入して頂くまでのことを考えている。お客様は、購入した後のことを考えている。」この簡単な理屈が高度成長時代には売る側の力が強くて見えませんでした。低成長の今、原点に立ち返って足元を見たいものです。
エールパートナーズ会計発行:成長企業のための情報誌「グローイングカンパニー」
2011年12月号(VOL 137)より
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