文●マーケティングコンサルタント 中安 康
アップルの創業者のスティーブ・ジョブスは、AppleⅡ、マッキントッシュでパーソナルコンピュータの世界に衝撃デビューしましたが、その後、突然、アップルをクビになりました。しかし、再び舞い戻り、iPodで音楽端末の独自の世界をつくって全世界を席巻、iPhoneで携帯電話の歴史を変え、iPadでパソコンの新しい世界を開拓しました。残念ながら2011年10月5日に56才で亡くなりました。 2005年スタンフォード大学の卒業式で行われた伝説のスピーチ「人生で得た3つのストーリー」は世界中で話題になりましたが、その要約を抜粋してご紹介します(注)。
1つ目「点と点をつなぐ」
私はリード大学を6ヶ月で退学しましたが、18ヶ月ほど大学に居残って授業を聴講しました。そこには、国内でも最高のカリグラフィ(=ギリシャ語で「美しく描く」という意味があり、アルファベットや絵文字を専用のペンで描くことを言います)教育がありました。見渡せばキャンパスにはポスターから戸棚に貼るラベルまで美しい手書きのカリグラフィばかりだったのです。私は退学して自由ですから、興味のあるカリグラフィの授業を受ける事にしました。そこで、異なる文字のコンビネーション手法など素晴らしいフォントの作り方を学びました。フォントは、美しく、歴史的にも、芸術的にも、科学で把握できないほどの緻密さで、とても魅力的な発見となりました。その時は、そのことがいずれ役立つという期待すらありませんでした。しかし、それから10年経って最初のマッキントッシュを設計する時に、その知識が役立ち、設計に組み込むことにしました。初めて美しいフォントを持つコンピュータが誕生したのです。もし私が大学であのコースを寄り道していなかったら、マックには複数の書体も字間調整フォントも入っていなかったでしょう。
未来に先回りして点と点をつなげることはできません。できるのは過去を振り返ってつなげることだけです。だから、点と点がいつか何かのかたちでつながると信じることです。歩む道のどこかで点と点がつながると信じれば、自信を持って思うままに生きることができます。たとえ人と違う道を歩んでも、信じることが全てを変えてくれます。
2つ目「愛と敗北について」
10年間でアップルはたった2人の会社から4千人以上の従業員を抱える20億ドル企業に成長しました。私たちは最高傑作であるマッキントッシュを発表しましたが、それからまもなく、30歳になってすぐに、私は会社をクビになってしまいました。私の人生のすべてを注ぎこむものが消え去ったわけで、それは心をズタズタにされた状態になりました。
その時は分からなかったのですが、やがてアップルをクビになったことは、自分の人生最良の出来事だったのだ、ということが分かってきました。成功者の重圧が消え、再び初心者の気軽さが戻ってきたのです。おかげで、私の人生で最も創造的な時期を迎えることができたのです。人生には頭をレンガで殴られるような時があります。しかし信念を失わないこと。私がここまで続けてこられたのは、自分がやってきたことを愛しているからということに他なりません。
3つ目「死について」
私は17歳の時、こんな感じの言葉を本で読みました。「毎日を人生最後の日だと思って生きてみなさい。そうすればいつかあなたが正しいとわかるはずです。」これには強烈な印象を受けました。それから33年間、毎朝私は鏡に映る自分に問いかけてきました。「もし今日が自分の人生最後の日だしたら、今日やる予定のことは私が本当にやりたいことだろうか?」。それに対する答えが「ノー」の日が何日も続くと、私は「何かを変える必要がある」と自覚するわけです。失うものは何もない。思うままに生きてはいけない理由はないのです。他人の人生に自分の時間を費やすことはありません。最も重要なことは自分自身の心と直感に素直に従い、勇気を持って行動することです。心や直感というのは、君たちが本当に望んでいる姿を知っているのです。だから、それ以外のことは、全て二の次でも構わないのです。
Stay hungry, Stay foolish. 私は常に自分自身そうありたいと願ってきました。
そしていま、卒業して新しい人生を踏み出す君たちに、同じことを願います。
Stay hungry, Stay foolish. 貪欲であれ、愚直であれ。
※注 今回ご紹介したのはいくつかの翻訳文、要約文を参考に、筆者が抜粋したものです。スピーチ全文の日本語訳、英語原文は、日本経済新聞 電子版 2011/10/9 12:00 http://s.nikkei.com/mVIzvc をご参照ください。
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