文●株式会社コア取締役/組織開発コンサルタント/公認会計士 蒲池 孝一
SNSと実名
SNS=Social Networking Serviceインターネット上で複数の人が、会員となって、相互にコミュニケーションを図るしくみ=が広がっています。
SNSは各種ありますが、一般的なものは匿名・仮名であるのに対して、Facebookは、実名・顔出しを特徴として急速に拡大しています。
しかし、実名は別に特別なことではありません。初期のSNSは全部実名でした。インターネットの普及につれ、個人情報を悪用する人が登場し、セキュリティが問題になり、とうとう、実名を避けることが一般化しました。Facebookに対して、実名だから怖い、実名といっても嘘がある、という人もいますが、実名という条件は、コミュニケーションには大事です。
コミュニケーションの意義
コミュニケーションは自分が何を思い、人が何を思っているかを知らせ合うものです。内容は千差万別ですが、実社会のコミュニケーションは実名が原則です。
実名は、コミュニケーションの本質にかかわっています。コミュニケーションは事実だけでなく、情(という人の気持ち)も伝達します。マスクをしたままでは、その内容たる情が誰のものか不審が付きまとうため、継続しません。報という面でも、有意義なことを言っていても、誰が発信しているか分からないのは、不気味です。
公園などの広場を思い浮かべてください。そこに居る人に声をかけても良いし、ビラを配っても良い。けれども、お互いにマスクをしていては、健全な交流はできないでしょう。
広がり
公園などの広場で呼びかけても、実社会では交友範囲の広がりには限界があります。
インターネットは、この実社会の交友範囲の限界を拡大してくれます。交友が広がるのを喜ぶのは、旅を好むと同じように人間の健全な本能かもしれません。
リッチな情報交換
実名であり、また、顔写真まで載せているFacebookの意味を考えてみましょう。
実際の会話は、情報交換をいくらでも濃くすることができます。曖昧な意味をはっきりさせられます。誤解が解け、曖昧なことを理解しあえる濃いコミュニケーション手段を「リッチ」といいます。
電報よりメール、メールより電話、電話より対面の方がリッチです。記録に残すなどの意味もあって手段は選択されますが、コミュニケーションの喜びをもたらすリッチなメディアは人には不可欠です(注1)。
顔写真付きの実名で発信し、それへのコメントが自由に書き込めるという工夫は、このリッチ性を高めるのにとても貢献しています。
メディアが社会発展に貢献する
インターネット社会は、無限とも言える広範囲に広がりました。発信者を隠してしまえる匿名・仮名メディア(注2)だけでなく、実名で情報リッチなコミュニケーションメディアが加わり、これにも参加者が急速に広がってきたことは、画期的なことだと思うのです。
都合の悪いことを隠す、人々の意見を排除するというようなことができない、開かれた社会が広がっていく期待が膨らみます。全世界で多くの人が相互に交流し理解が広まる、深まる。良いことだと思いませんか(注3)。
※注1 メディアリッチネス:メディアのこの特性を最初に指摘したのはダフト。文脈が伝えられることがリッチなのです。それを発展させた岸教授の論文は組織のコミュニケーションについて考えるのに参考になります。岸真理子(法政大学教授)「情報の多義性とメディア・リッチネス (1991)」
※注2 時の権力に反抗する情報を発するときはマスクをすることはリスク回避として必要になる場合もありますが、ここでは想定していません。
※注3 ここでは、SNSのビジネス利用、SNSでの話題の限界などの論点は紙面の都合で述べませんでした。様々な問題をはらみながらも、実名のコミュニケーションが登場した意義にスポットを当てました。。