●税理士 北川 順一
利益が出れば、会社の資金は増えるはずだ、と思っている方も多いかも知れませんが、実際には必ずしもそうではありません。たとえば、利益が出ても売掛金の回収をしていない場合や、利益が出ていなくても借入をした場合を想像して下さい。そうです。利益と資金は一致しないのです。
キャッシュ・フロー計算書(以下C/Sという)は、会社の資金の増減過程を説明する財務諸表として益々重要性を増しています。
1. C/Sの位置付け
我が国の会計制度上ii、連結決算の導入とともにC/Sを第3の財務諸表と位置付け、上場企業はその作成・開示が義務付けられています。また、中小企業の会計に関する指針でも「C/Sを作成することが望ましい」としてその作成を推奨しています。
2. C/Sの内容
C/Sは、企業の資金状況を表すために、期首と期末のキャッシュの増減内訳を、3区分(営業・投資・財務の各キャッシュ・フロー)に分けて表示します。
ここでいうキャッシュとは、現金預金及び現金同等物を言い、具体的には、現金預金とは、手元現金・要求払預金(普通・当座・通知預金)を言い、現金同等物とは、3か月以内に換金可能な定期預金・譲渡性預金などiiiを言います。よって、1年定期預金などは含まれません。
3. 営業キャッシュ・フロー (以下C/Fという)のポイント
営業C/Fは、本業で稼得したキャッシュの増減を表しており、これがプラスであることが企業存続の第一条件です。
営業C/Fは、業績によるものと取引条件によるものに区分されます。業績によるものとは、税引前利益、減価償却費、法人税等を言い、まさにこれが本業から稼得したキャッシュです。
一方、それ以外は取引条件の良し悪しによるものです。売掛金が前期より増えればそれだけ回収条件が悪くなった=C/Fにマイナスと表示され、買掛金が前期より増えればそれだけ支払条件が良くなった=C/Fのプラスと表示されるわけです。
つまり、計算上は利益が出ても、取引条件が悪化すれば、キャッシュは減ってしまうのです。逆に言うと、利益が少なくても、取引条件を改善すれば、C/Fは改善するということです。御社の状況をよく確認してみて下さい。
4. 投資C/Fのポイント
投資C/Fは、将来の利益稼得のためにどれだけの投資をしているかという企業の投資政策を表し、通常はマイナスが良好な状態です。
また、営業C/F+投資C/Fをフリーキャッシュ・フロー(以下、FCFという)と言い、重要な指標の一つです。企業はFCFがプラスであれば、手元に現金があり、借入金返済、配当増額、翌期以降の戦略的投資やM&A用の資金として留保することができます。一方、FCFがマイナスであれば、手元現金が無く、資金調達の検討が必要になるなど、あまり良い状態でありません。
一般的には、FCFがプラスになる範囲で投資するのが健全と言われていますが、FCFがマイナスになるまで投資し、数年後にその投資によりFCFがプラス化しているケースもあり、その判断は経営戦略そのものです。
5. 財務C/Fのポイント
財務C/Fは、必要なキャッシュをどのように調達し、返済しているかを表しています。中小企業では、借入金による調達と返済がその中心となります。いかにFCFをプラスにできるかで、財務C/Fの内容は変わってきます。
営業・投資・財務の各C/Fを合計すれば当期のC/F合計となりますが、合計よりは各C/F及びFCFの状況を把握し、判断することが重要です。図表1にC/Fの各項目がどうなればC/Fにプラスかマイナスをまとめましたので、ご参照下さい。
i : Cash flow Statementの略
ii : 金融商品取引法
iii : 他に、3か月以内換金可能なコマーシャル・ペーパー・売り出し条件付き現先・公社債投資信託を含む。
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