文●マーケティングコンサルタント 中安 康
我が国には創業以来200年以上続く会社が少なくとも3,113社(営利企業のみ)あることがわかっています。これは2位のドイツを引き離し圧倒的な世界第1位。なんと世界中の43%が日本に集中していたのです。これらの長寿企業はわずかな例外を除き、ほとんどがファミリー企業でした。(光産業創成大学院大学教授 後藤俊夫氏調べ)
100年、200年の間には、予想をはるかに超える事件や、時代の大きな変化を経験しますが、そのような中で、日本にこれだけの数の企業が継続できていることは、驚嘆に値します。そこに共通することは何でしょう。世界中の100年以上の長寿企業を調査した本『リビングカンパニー』(日経BP社)によると、長寿企業には4つの共通点があるそうです。
第1に、長寿企業には環境の変化に対して敏感であること。第2に、長寿企業には強い結束力があり、企業組織全体の健康状態を大切にする経営者に経営をゆだねていること。第3に、長寿企業は連邦型の経営を行って現場の人々の判断を大切にしていること。第4に、長寿企業は資金調達に関して保守的で質素倹約を旨としていること。今回はその中でも「変化に対応すること」と「人材」についての考え方に触れてみたいと思います。
長寿とは、大きな変化に対応すること
田中貴金属は1885年(明治18年)、 両替商として日本橋茅場町で創業。一般には「金地金」を売買する店として有名ですが、現在は、携帯やデジカメに不可欠な金属、振動モーター用のブラシといった金・プラチナを利用した極小部品の製造も行なっています。更に燃料電池の触媒等の分野でも活躍しています。
羊羹で有名な老舗企業の虎屋の現当主も、「『伝統とは革新の連続である』という信念のもと日々努力をし、時代の流れを読みつつ、常に前進しなければならないと思っています」と言っています。
ちなみに、世界で最も長寿企業とされているのも日本企業。大阪にある金剛組です。金剛組は、聖徳太子の命を受けて西暦578年に百済の国から招かれた3人の宮大工の一人、金剛重光によって創業されました。以来1400年以上の歴史を持っています。
長寿企業の言葉で「短期10年、中期30年、長期100年」という言葉があります。一般の企業において短期が1年、中期が3年、10年で長期ですが、時代のモノサシが違います。5年10年の時代の変化ではなく、100年単位で見るからこそ、目先に左右されることなく、時代の行く末を注視しながら、大きな時代の変化に本業をいかに活かすかを常に考えています。
長寿企業とは、人が成すこと
長寿企業に共通するのは、人を中心にしていることです。中国には、「来年のことを考えれば金を残せ、10年先のことを考えれば土地を残せ、100年先のためには人を残せ」 ということわざがあるそうです。
企業の力の源となるのは、企業の中に蓄積された技術やノウハウの継承。長寿企業では、熟練した人の技を継承するために、常に若手と一緒にものづくりをしながら、技術や仕事に対する姿勢の継承を図っています。
そして、最も大切なのが事業の継承=経営者の継承です。265年続いた徳川幕府の名君として名高い徳川吉宗は、徳川御三家の紀州藩の藩主として治世に力を発揮していましたが、将軍家の直系が途絶えたこともあり、8代将軍として迎えられます。長寿企業の経営者が最も苦労したのが、誰に次を任せるかでしょう。ドラッカーも、次世代にバトンを引き継ぐための「承継計画」については中立的な立場にある第三者の専門家(税理士・公認会計士・弁護士等)にアドバイスを求める必要があると説いています。
非常に難しい時代に遭遇していますが、長寿企業には、われわれ経営者が学ぶべき事柄や言葉が、宝石の山のように埋まっています。是非一度詳しく調べることをお勧めします。
長寿企業大国・日本 本業を基軸に変化する。 この記事は参考になりましたか? |