●税理士 北川 順一
相続の放棄は法律行為。「自分は相続財産は一切要らない。」と遺産分割協議書に書いても、相続放棄の法的効力はありません。また、相続放棄の意味を十分理解しないで手続しても、放棄した目的を達成できない可能性もあります。今回は、相続放棄という法律行為の基本部分を説明します。
1. 相続放棄とは
相続が開始した場合、相続人は相続する(承認)のか、しない(放棄)のか、の選択を迫られます。
相続放棄とは、被相続人の遺産を一切承継しないようにする法律行為で、相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます。
2. 相続放棄のメリット・効果
相続放棄の最大メリットは、被相続人の債務を引継がなくて良い点です。多額の借金等がある場合、相続放棄すればその負担が無くなりますので、非常に大きな効果があります。
他にも他の相続人と揉めたくない場合や、特定の相続人に相続を集中させたい場合にも、有効な手段です。(図表1参照)
3. 相続放棄のデメリット・注意点
相続放棄の最大リスクは、撤回ができないことです。放棄後に多額のプラス財産が判明しても原則として相続放棄の撤回はできません。
また、自分は相続放棄で債務負担を回避できても、他の相続人に債務負担が移転する可能性があります。債務負担回避には、相続人となり得る全ての人が相続放棄することが必要です。(図表2参照)
4. 自分の連帯保証は解消できない
相続放棄できるのは、あくまでも被相続人の債務です。元々自分が被相続人の債務の連帯保証人になっている場合の連帯保証はなくなりません。
5. 熟慮期間は3か月しかない!
相続放棄の手続きは、相続開始を知った日から3カ月以内です。実際には、3カ月はあっという間に過ぎてしまい、とても熟慮する余裕はありませんが、法定期限ですので、何とか判断するしかないのです。
また、3か月以内に遺産の一部を処分(不動産の処分や家屋取壊し等)した場合には、相続を承認したことになりi、相続放棄はできません。
なお、東日本大震災の被災者である相続人については、熟慮期間をH23/11/30まで延長する特例法が6/21に公布・施行されました。被相続人ではなく相続人が被災者であることや、地域等の要件があります。特例法の要件に該当しない場合には、個別に家庭裁判所に熟慮期間の伸長等を申し立てることになります。ii
6. 相続放棄しても受取れるもの
被相続人が契約していた生命保険の受取人が相続人である自分となっている場合、生命保険金は、元々相続財産ではありませんので、相続放棄しても受取れます。死亡退職金等も規定次第では同様の取扱いとなります。
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相続放棄は法律行為です。相続放棄する目的を明確にし、それが相続放棄で達成されるのかを、専門家に相談したうえで実行することが肝要です。
i: 民法921条第1項
ii: 法務省HP http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00092.html
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