文●マーケティングコンサルタント 中安 康
「有事」を想定した自己完結型の装備と組織を持つ自衛隊の活躍が、今回の東日本大震災で注目されています。
自衛隊は、他の組織と全く違う
自衛隊は、警察や消防署と全く違う「自己完結型」の組織です。今回の震災でも、現地に移動後ただちに設営場所を探して野営、すべてを自前でまかなっています。
装備は、戦地を想定していますから、例えば、道路や橋梁が破壊されても、自前の架橋システムを利用して通行を可能にしています。またキャタピラ付の装甲車輛なら、道路が破壊された場所、あるいは道路がなく通常のトラックが通れない場所でも通行が可能です。所有するヘリは500機強で世界最大規模です。今回は被災地が広範で孤立していることもあって大活躍しています。また医療分野では、海上自衛隊には、艦艇には外科用の手術室から歯科施設まで本格的な医療設備があります。陸上自衛隊には野戦病院システムがあり、病院施設が機能しない場所に展開することも可能です。
これらは、有事の際に、インフラが全く機能しないことを前提に組み立てられた仕組みです。かたや、警察や消防隊は、シングルタスクですから自衛隊のように独立・自己完結して活動することは不可能です。
現場に一番近い組織が判断・実行する
現在のように先行きが不透明で、現場であるレベルまで判断しながら進めることが必要な時代は、組織のバックアップ機能を有しながらも、現場や事業ごとの独立型組織が求められています。
例えば、地方の会社が東京へ進出する場合、本社がコントロールしながら進出するケースがほとんどですが、上手くいかないケースが多いのが実情です。それは、東京の市場を知らない人がコントロールするという問題と、東京の推進者が責任と権限を持って進める形になっていない事が大きな理由です。自社の製品やサービスを東京市場で販売する場合、そのまま持ち込んで成功すれば良いのですが、ローカライズ(その地域に合わせた商品、サービスにしていく)が必要です。それには、その地域にいる人に責任を持たせ、権限を委譲する必要があります。東京から地方に進出する場合も、海外に行く場合も同じです。また新規事業を立ち上げる場合も同じです。
他社と戦うのではない
このローカライズを徹底的に行っているのがサムスンです。一見、世界標準を展開しているように見えますが、国や地域によって、文化、考え方、商品の普及率等々全く違います。現地を徹底的調査し、実情を汲み上げて、その地にあったローカライズを推進しています。現地に派遣した人たちが主役です。競争ではなく、現地のユーザーニーズを徹底して汲み上げ、実施することです。結果として、他社と差別化出来ます。
必要なものを調達するための機動性のある体制
自衛隊は、現地調達も含めてあらゆる方法で必要物資を調達します。軍隊にとって「兵站」はもっとも重要な任務の一つです。
各企業も、本社から離れた拠点の場合、顧客からの要請によっては、ライバル企業から調達して納品することを想定するくらいのダイナミックさが重要です。ユーザーの困りごとを最優先課題として、柔軟で機動性のある体制を敷くことです。
震災後、市場は激変しています。もう一度現場感覚を磨き直して、「今回の震災によって自社の属する市場とユーザーの意識や行動がどの方向に向かうか」をウオッチして、それぞれの現場に近いところで打てる手はどんどん打つというスピード感が非常に重要になってきます。最終的には、企業展開のシナリオを、もう一度大きく書き換える必要があるケースも出てきます。