文●株式会社コア取締役/組織開発コンサルタント/公認会計士 蒲池 孝一
今回の震災で、菅総理が福島原発を被災初期に訪れたことが批判されました(注1)。今朝も、テレビで、コメンテータが発言していました。私には、それは少々奇異な感じがしました。なぜなら、いち早く、現場に行き、状況を見てくるという行為は、至極、当然だと思ったからです。
そこで今回は「トップにとって現場を見ることの意味」について考えてみました。
誰が現場を見るべきか
私たちは、生産管理を始め全てのジャンルの業務改善で、現場重視を言います。知恵は現場からだ、「現場」で「現物」を見ながら「現実的に検討すること」が大事だ、と。この心構えは3現主義とも言われ、我が国の企業の力を強めてきました。
しかし、専門的知見がない人が現場を見ても、解決策が発見できないことも有るでしょう。今回、総理を批判している人の意見に耳を傾けると、こういうことでしょうか。
「現場が大事なのは、知恵を出す人にとってである。指揮官はそんなことではなく、全体が見渡せる場所で、全体の状況を良く観察し、指揮をとることだ」と(注2)。
確かに、いくつもの関連したことを総合して解決するための構想は、部分に拘泥しすぎると失敗することも有るでしょう。全体の指揮者は、大所高所から観察すべきだという言い分も、正しそうです。
ですが、やはり、私は、結論的に、現場を見ることは必要なことだと思うのです。
現場・現物と現実
現場は、そのことが起きている場所。現物は、それが起きている物。そして、そこに現れているのは現象です。現場・現物に接し、現象を観察し、その意味、それが生じた原因を考え、頭の中に因果関係を組み立てます。それが得られた「現実」です。
人はそれぞれの体験を前提にしていますから、同じ現場・現物による現象を見ても、その受け止め方が異なります。現実は人によって異なるとも言えます(注3)。だから、改善活動で、現実=自分が解釈したストーリーを仲間と交換し合うことはとても大事なことなのです。
トップの課題
企業・政府・どんな組織でも、トップが解決しなければならない課題は重大かつ困難です。その解決のために、多くの人の知恵と力を集めるのがトップの仕事です。そして、様々な障害と闘わねばなりません。
障害とは、課題相互が絡み合っているばかりでなく、組織内における駆け引きや個人的な思惑による攻撃、それらに妥協してしまったり、逃げてしまいたいと思う自分の弱さなどであり、様々なものが立ちはだかってきます。
そんな時、自分自身を奮い立たせ、熟慮の末の結論を行動に移さねばなりません。報告の報告・・・という現場から離れた所では現実を自分の中に描くことはできないでしょう。
現実を描くために、時には、悲惨な現場、悲しみの涙、あるいは、人の触れあいによる感動・・・これらを目の当たりにすることによって心に記憶される、映像・におい・動悸の音・・・、こういうものこそが大事なのです。それを思い出す度、やらねばならないという想いがひしひしと湧いてくるはずです(注4)。
こういうことから、トップの現場視察はできるだけ早い時期になされるのが良いと思うのです。
※注1 「12日午前7時過ぎにヘリコプターで同発電所を訪れ…東電職員らから状況の説明を受け、その後、宮城・福島両県を空から視察した後、帰京した。」
YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110328-OYT1T00732.htm?from=y10
※注2 今回の総理に対する批判は他の事情もあって一概にその正否を論じられません。本稿は、あくまでこれをきっかけに、純粋に、トップにとっての「現場」「現実感」を考えてみようとしたものです。
※注3 3現主義を主張している人も誤解しているのですが、現実は、誰にとっても同じというのでは決してないのです。
※注4 菅総理は、あの悲惨な出来事を直接目の当たりにし、生き方が変わったはずです。