文●税理士 北川 順一
資本金と言えば会社の顔のひとつ。その金額によって対外的な信用度はがらりと変わってしまいます。特に中小企業の資金調達時には経営者の資金力や覚悟を示すものとして必ずチェックされる項目です。また、創業時の資金調達において金融機関が確認できる客観的な数字は資本金(または自己資金)くらいしかありませんので、なおさら重要です。
では、資本金は大きければ大きいほど良いのか?答えは「NO」。理由は、税法上、資本金の金額によって中小企業を優遇するための様々な特典が設けられているためです。
対外的な信用力と税法上のメリットなど総合的に判断して資本金を決めることが必要です。
1. 資本金の境界線は 1000万円と1億円
税法上の取扱いにおける資本金の境界線は、1000万円と1億円です。会社設立や増資を検討する際には、これらの境界線による違いを正しく把握したうえで資本金の額を決める必要があります。
現実的には、会社設立時には1000万円、増資時には1億円の境界線が、その後の税金負担に直接影響する可能性が高いといえます。
資本金1億円以下の法人に対する特典の主なものは図表1の通りです。項目も多く、税額に大きく影響するものもありますので、ご参照下さい。
2. 会社設立時は、 1000万円の境界に注意!
資本金1000万円の境界で最も重要な項目は消費税です。会社設立時に資本金が1000万円以上の場合、課税事業者となり、消費税を納税する義務を負いますが、資本金が1000万円未満であれば設立後2事業年度は消費税の免税業者となります。設立時に設備投資等が少なく、初年度から利益が出る計画であれば、消費税の免税が選択できると、本来納税すべき金額が社内に留保でき、資金繰りがその分楽になるのです。資金調達との関係で慎重に検討すべき項目となります。
3. グループ法人税制導入で 大会社の子会社等はメリット消滅
H22年度税制改正において導入されたグループ法人税制により、自社の資本金が1億円以下であっても、親会社の資本金が5億円以上(会社法上の大会社)の完全子会社である場合には、以下の中小法人の特例が適用できなくなりました。
1. 留保金課税の不適用
2. 軽減税率
3. 交際費の定額控除
4. 欠損金の繰戻還付
5. 貸倒引当金の法定繰入率
今まで中小法人の特例を受けていた法人が、グループ法人税制の対象となる場合の税額SIMを図表2に掲載しました。税引前利益800万円、交際費600万円の場合、税額が360万円増額する可能性があります。資本金1億円以下のメリットを物語る一面でもあります。


資本金は会社概要などにも必ず記載される重要な項目です。財務比率分析なら資本金だけでなく純資産額を指標にする可能性がありますが、会社概要に純資産額を記載する例はほとんどありません。対外的信用の問題と税制上のメリット享受とのバランスを図るため、税理士等の専門家に相談しながら慎重にご検討下さい。
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