文●マーケティングコンサルタント 中安 康
日本の見本市は、業界団体や業界新聞社等の開催による「先端技術や業界動向を見学するショー」でした。そのためバブル以降の厳しい状況の中、参加企業が大幅に減り、次々と縮小していきます。しかし、リード エグジビション ジャパン(以下リード)が主催する見本市だけは拡大を続けています。
【図1】リードの売上推移、出展社数の推移
※リード エグジビション ジャパンHPより抜粋
なぜリードだけが伸びるのか
海外では、見本市は、出展する会社と来場するバイヤーとの効率の良い商談の場です。
リードは、日本で一般的だった「見学ショー」を欧米並みの「商談大会」に変えていきました。
出展企業が出展費用と比較して、売上や新たな見込み客が発掘できれば、次回以降も必ず出展する。
このシンプルなロジックを回すためにリードが実施したのは、企画力でも広告宣伝でもありません。「営業力」でした。日本の場合、イベントやショーというと「企画力」と「広告宣伝」で人を集めようとする傾向がありますが、実際に来て欲しい人に足を運んでもらうのは、個別の営業力によってのみ可能です。
石積社長はあるインタビューにこう答えています。「国際文房具展では、リードの社員が1000軒の個人商店を回って、来場者集めに注力した。フラットパネルディスプレー製造展では、台湾、韓国にまで足を伸ばし、数千人の来場者を集めるために社員が駆け回った。これは、直接的には、我が社の売上に貢献しない。すべては、お客様のためにという精神がそうした努力の裏にある」。「ユーザーは直接商品に触れ、比較検討したいし、直接メーカーの人と会って取引したいのだ」。
出展企業もバイヤー企業も喜ぶ仕組み
リードが行ったのは、見本市の開催ではありません。参加企業が見本市を成功させる仕組み作りです。【図2】のような仕組みを推進するには多大なコストがかかります。しかし出展企業にしても来場企業についても、一度この見本市でビジネスとしてのメリットがあれば、次回からは、リードからの営業なしでもセミナーや会場の商談に参加します。リードが行っているのは個々の営業ではなく、「儲かる仕組み」を売り込んでいるのです。ですから一度参加した企業がリピーターとなり、この状況下でも右肩上がりの成長をしていくのです。
【図2】リードのビジネス推進構図
商売の原理原則に立ち返る
透けて見えるのは、日本あるいは業界で当たり前と思われていることを、もう一度見直す必要があるということです。会社の中で当たり前と思われていることが、世界という軸の中で考えると非効率的であったり、目的があいまいであったりします。そして最も深く調べる必要があるのは、お客様の売上を上げたいと思うニーズに沿うために、積極的にお客様に提案をしているのか、提案するための仕掛けや仕組み、教育を含めてモデルを構築し推進しているか、ということです。
見本市といえば、以前より欧米が進んでいましたが、いまや韓国や中国も、日本を上回る実績を上げ、更に増やそうとしています。
「世の中が変化しているのではありません。経営者が業界や日本だけを見て、本来の商売の原理原則を忘れているだけだ」、ということをリードの事例は教えてくれます。