文●マーケティングコンサルタント 中安 康
今まで何度も、パソコンが小さくなる度に、いつでもどこでも、そして誰もが使える機械になった、と言われました。しかし、今まで実現したパソコンはありませんでした。
しかし、日本で今年5月末発売予定のAppleの「iPad」(アイパッド)は、大人の様々な会話やビジネスシーンの中に入り込む全く新しいコミュニケーションツールとなるでしょう。これまで、Webを見たり、写真やビデオなどを楽しむには、パソコンの前に座る必要がありました。でもiPadがあれば、もうパソコンの前に座る必要はありません。ソファの上でもベッドの上でも、好きな場所で、しかも好きな姿勢で楽しむことが出来ます。
またパソコンは、企業にとってはなくてはならないものですが、個人を見ると使用していない人たちがいます。それはシニア層といわれる人たちです。シニア層にとってパソコンは家電と同じように使い勝手のいい機械ではありませんでした。
「iPad」は誰でも使える家電になった
今回の「iPad」は、Appleのスティーブ・ジョブス最後の作品とさえいわれている商品で、販売直前まで仕様も価格もベールに包まれたままでした。2010年4月3日アメリカで発売されるやわずか1週間で45万台売れました。4月末に世界発売を予定していましたが、5月末に延期をせざるを得ないほど売れ、アメリカでは、現在も更に販売数を拡大しています。
まさに、誰もが、どこでも使える情報端末です。(写真参照)
キーボードはありません。画面上をタッチするだけです(このタッチの自在性が革命的で、「タップ」と呼ばれています)。大きさは、B5の長辺を少し短くしたサイズ(189.7mm×242.8 mm)、薄型(13.4 mm)のディスプレイ(本体内蔵)のみで、どこにでも持って歩ける重さ(680g又は730g)です。スイッチを入れたらすぐ使え、画像データなどもサクサク動きます。パソコンのような待ち時間がほとんどありません。
ある人によると「これなら80歳になる私の母親でも、ネットにつながる事ができるのではないかと思いました。」という家電並みの操作のしやすさを実現しています。
お客様とのコミュニケーションはネット重視に移行
既にGoogleも同じタイプのタブレットコンピュータ(iPadのようなタッチ入力コンピュータをタブレットコンピュータと呼ぶ)を発表しました。マイクロソフトも追随するでしょう。「パソコン」がインターネットのコミュニケーションツールであった時代は、「いつでも、どこでも誰もが」というキーワードは、むずかしい機器を操作する必要のない「紙」の専売特許で、情報伝達のために必ずしもインターネットがなくても済みました。しかし、誰もが楽しく使える「タブレットコンピュータ」の時代になると、人々は、タブレットコンピュータから情報を得ようとすることが多くなります。今後は、ネットを通じたコミュニケーションを前提にした広告や販売活動をする必要があります。もちろんそれは静かにやってきます。しかし今まで経験したことのない地殻変動が始まったことは間違いありません。
〈参考〉Appleが先導して来た情報革命
①Apple II(1977年):カスタムチップ、世界初の表計算ソフトを搭載
②マッキントッシュ(1984年):個人の道具として登場。アドビ社との連携でデザイン印刷業界に革命を起こす。(パソコンの標準ソフトとなったWindowsがマッキントッシュの真似であることは有名)
③iPod(2001年):パソコンとの連携ソフトiTunesとiTunesストアというネットサービスにより音楽のデータダウンロード販売の道を拓き、音楽産業の流通形態を一新した。(ソニーを完全に凌駕)
④iPhone(2007年):携帯電話をインターネット常時接続(パケ放題の利用が加速)の情報&エンターテインメント端末に進化。
⑤iPad(2010年):Appleのスティーブ・ジョブスが描き続けて来た「誰もが、どこでも、自在に使えるコンピュータ」の本格実現の幕開け。