文●マーケティングコンサルタント 中安 康
サムスン電子は韓国本社の多国籍企業。特に大きな世界シェアを持つ製品は薄型テレビ、液晶パネル、PDPパネル、半導体(DRAM、フラッシュメモリ)、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、液晶ディスプレイ、プリンター、ハードディスク、SSD、有機EL、白物家電など。2008年は21の製品分野で世界シェア1位。
学ぶことを忘れ、
技術開発に傾倒する日本の大企業
「日本は技術的なイノベーションを過剰に信奉するが、それを追求することが本当にこれからのグローバル経済の中で、競争優位の源泉につながっているのだろうか。大した利益を出せずにいる。おいしい実はすべて摘み取られているという状況だ。」(東京大学ものづくり経営研究センター〈元サムスン電子常務〉吉川良三氏)。
戦後の日本の企業は、アメリカを見本に、先行する技術を徹底的に研究し、新たに解を見つけることで、自社で開発するよりはるかに少ない投資で急成長することを実現しました。しかし日本には、いつの間にか研究開発が日本を牽引するという風潮が蔓延しています。既存の技術を利用してユーザー価値を高める開発をすることのほうが、企業収益を上げられます。日本の良さの「徹底して海外から学ぶ、他社から学ぶ」という姿勢を忘れた感があります。
グローバルであることは
各国の個別事情を知り、
対応すること
「日本企業は世界に対して最先端の技術を搭載した製品を輸出しているが、製品戦略が画一的でインドでも中国でも先進国向けと同じようなテレビ、同じような洗濯機を出している。」(吉川良三氏)。
グローバルであることは、それぞれの国の事情を充分調査しながら、その国にあった商品を販売する事、家電製品の場合はその国の中産階級といわれている人がメインのターゲットです。サムスンは、まるで諜報機関の様にその国の人々の趣味嗜好や習慣や癖まで調査をおこないます。新興国では洗濯機のニーズは非常に高いのですが、予算は1万円位です。そのためには徹底した機能のそぎ落としが行われ、日本では過去の商品=二槽式洗濯機を発売し、爆発的なヒット商品となっています。その国の本当の事情を知ること、これがマーケティングです。
国内市場でも同じです。デパートが典型的な例ですが、全国どこでも東京発の画一的なブランドをそのまま持ち込んで販売をしてきました。結果、地方に進出した中央のデパートは大苦戦です。安易に東京のモノを持ち込む時代はとっくに終わっています。また、地方から東京へ販売するときも、東京市場の徹底調査がなく、失敗している会社が多いのが現実です。
現代は、戦国時代であること
サムスンの社員教育はスパルタ式としても有名ですが、そこにあるのは企業戦争の真っただ中にあるという意識です。激烈な競争社会で、「ターゲットとするユーザーの支持を受ける商品を、徹底的に調査し、開発すること」が一つの解です。サムスンの事例は、戦国時代に生きる「知恵」があれば、技術が不足しても出来るということを証明してくれています。しかもこのことは、戦後、日本の企業が最も強みとしていたことでした。
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2008年度トヨタでさえ大幅赤字の中、売上118兆3800億ウオン(9兆4700億円)、営業利益5.7兆ウオン(4560億円)を稼ぐ。