文●マーケティングコンサルタント 中安 康
自動車業界が大きく揺れています。従来の業績不振の合従連衡から、これから始まる「自動車業界の構造変化」を予測し、業界の動きはダイナミックさを増しています。スズキとフォルクスワーゲンとが提携、電気自動車の技術を持つ三菱自動車にプジョーが資本参加の方向・・・。 環境問題を通して見ると、今の自動車は、一台一台「エンジン」という発電所を抱えているようなものです。環境コストがゼロの時代は、それでよかったのですが、ガソリンという有限な資源を使ってCO2を排出しながら走る自動車、環境問題から見ると最も大きな課題を抱えている業界の一つです。この業界に、実用化が可能な電気自動車が登場し始めました。
電気自動車は
自動車業界にとって大事件
電気自動車になるということは、T型フォードから始まる自動車製造業にとって最大の事件となります。今までの自動車業界は一台を生産するために多くの工場や関連の部品会社が必要でしたが、車輪に直接モーターを着け電池でモーターを回すようになれば、今までのような複雑な構造が必要なくなります。一説によると部品の数は1/10になるそうです。
従来のような巨額の設備投資や大規模な工場や施設が必要なくなると、異業種からの参入が活発になってきます。既にアメリカや中国では、投資家が新興電気自動車メーカーへの投資を行い始めています。もちろん、車体や走行の安全性、快適性には、長年の技術や経験の蓄積が大きくものをいいますが、新規参入が止むわけではありません。
こうなると従来の自動車産業に携わる企業や従業員は死活問題です。景気が悪くてだめになるわけではなく産業構造の変化ですから抜本的に対応せざるを得ません。更に日本の経済を牽引している自動車産業の話ですから、対応次第では日本経済全体にとっても深刻です。
自動車は移動する
エンターテイメント空間となる
電気自動車になるということは、自動車に搭載する機器が少なくなり、形状も従来のカタチにとらわれる必要がなくなります。できるだけ速く移動したい車、走りを楽しむ車、居住空間として楽しみたい車、効率よく仕事をこなすための移動型オフィス等、家電設備充実により居住性は飛躍的に上がり、ネットワーク環境の取り込みにより、車内をまさに動くオフィスにすることも簡単に出来るようになります。車という概念から移動オフィスという概念へ・・・。そのような動きが新たな競争を呼び、新しいビジネスモデルが生まれます。
上記のように自動車の新たな世界が現実性を帯び始めたのは、リチウムイオン電池の性能の向上があったからです。電池の充電時間が実用に耐えるようになったことが基本にあります。
技術は社会の要請により加速する
自動車がCO2を撒き散らすガソリンで走る機械であることが、電気自動車の技術開発と普及を加速しています。従来の変化よりも、はるかに早く変化すると考えたほうが良いでしょう。
その他の業界も同じです。電力、ガス業界でも東京電力と東京ガスがしのぎを削っていますが、東京ガスでは、電気が送電などで発生するロスが62%に達しているとして、家庭や工場へ行く前のエネルギー効率も向上させることでトータル20%のエネルギーロスで済む「エネファーム」という商品を開発しています。使用者だけのエネルギー効率訴求から、社会全体のエネルギー効率訴求が確実に消費者に受け入れられる時代になりました。
その他、印刷業界でも、必要なものを必要な時に、必要なだけ印刷するオンデマンド印刷機が徐々に普及していますが、配送等のコストを入れても従来の印刷機のほうが安いため、オンデマンド印刷機の利用は限定的です（採算が合うのは数百枚までの少量）。しかし、オンデマンド機の1枚あたりの印刷コストがもっと下がれば大きな変化が訪れるでしょう。
これからは、どの業界も環境コストを背負う時代になります。要素技術の革新が急速に進み、最後のボトルネックをクリアすれば産業構造が大きく変わる、という段階に来ているかもしれません。
