文●マーケティングコンサルタント 中安 康
リヤドロジャパン株式会社(代表取締役社長 ジェローム・シュシャン氏)が、この不況の時期に、扱うものは高級品でありながら売り上げを伸ばしています。 リアドロは、スペインの高級陶器人形のデザイン・制作・販売会社として世界中に進出している企業ですが、ウェッジウッドの倒産等ヨーロッパの高級陶器が大苦戦の中での出来事ですから非常にレアなケースと言えます。その成功の秘訣は、日本という市場を熟知し、ユーザーのハートをつかまえていることです。ちなみに、リヤドロジャパンの社長は、フランス人ながら、既に、20年間日本で暮らし、日本人の特性をよく把握しています。
リヤドロジャパン社長による
日本人の特性とは
その一…日本人は文化とその意味を大事にしている。
例えば節句です。日本人でも〔五節句(ごせっく)〕*注については知らない人が多いですが、リヤドロジャパンはここに着目し、スペイン本社ではなく、リヤドロジャパンの主導で、日本の節句人形を高級陶器で商品化しました。スペインの人形を日本人にとって、身近に、そして貴重なものにしていきます。比較的高年齢層で花束を持った女性や動物を愛用してきたのが従来の顧客でしたが、新しいシリーズを打ち出し、提供製品のバラエティーを増やしたことにより、顧客の年齢は若返り、顧客の幅も広がり、結果として企業の収益性が向上しました。
その二…日本人は限定モノに弱い。
アーティスティックな作品については、製作個数を限定し、購入者の心をくすぐり、商品価値を高めます。世界限定300個というような表現は、購入者の心をくすぐります。
お菓子でも限定何個という表現で、店頭に買い物客が並ぶという風景は日本では珍しい風景ではありません。
その三…家の宝物になる。
よく言われる一生もの、いや先祖代々引き継げる作品ということです。
確かに、リアドロの作品は、ロシアのエルミタージュ美術館、ベルギーの王立美術歴史博物館などで常設展示または所蔵されているそうですが、1953年に出来た会社です。ウェッジウッドが1759年と250年の歴史があるのに対してわずか60年弱の歴史です。このことは、作品の質の高さとデザイン性が非常に優れていると同時に非常にレベルの高いマーケティング力があることを伺わせます。
日本の企業の場合、非常に質の高い製品を創る技術はあるのですが、時代を意識したデザイン性の高さやマーケッティング力に欠けていることがよく指摘されます。これは島国特有の外国との競合が少ないという事情も大きいのかもしれません。そんな中で、リアドロはメインの顧客である日本の中・上流人たちの心をくすぐるキーワード(一生もの)をよく理解し実践しています。
売れない時代に、
「購入する理由」を提供
リアドロの代表取締役社長 ジェローム・シュシャン氏によると、日本の消費者の日本文化への思い入れはますます強くなっているそうです。
戦後の高度成長時代が終焉し、低成長時代になりましたが、過去の不況と違い、様々なものがあふれているための売れない時代=「成熟社会」です。
この時代は、他との差別化と同時に「購入する理由」を提供する必要があります。リアドロは、日本の消費者にリアドロの商品価値を伝え、「購入する理由」(日本独自の風習をうまく活用)を提供して、無理に売り込むことなく収益を伸ばしています。
このことは、様々な分野で、モノを売り込むのではなく、コトを提供する、つまり「購入する理由」を提供することで、まだまだ、企業の成長が可能だということを教えてくれています。
※注 昔の1年のうちおもな5つの節句。
1月7日の人日(七草節句、白馬の節会)、3月3日の上巳(桃の節句)、5月5日の端午(菖蒲の節句)、7月7日の七夕(星祭)、9月9日の重陽(菊の節句)の5つの節句をいう。