文●マーケティングコンサルタント 中安 康
「課題先進国」という言葉は、東京大学の総長小宮山宏氏の言葉です。それは、「例えば、世界に類を見ない日本の超高齢化問題も、実は数十年後の世界の姿です。日本の課題は、将来の世界の課題です。」【図1】ということです。超高齢化社会の問題にとどまらず、恒常的な資源不足、都市の超過蜜化と地方の過疎、世界に類を見ないヒートアイランド現象など、将来確実に世界を覆う問題が、日本で最も早く顕在化しています。
【図1】世界の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人の割合)
※資料:UN, World Population Prospects : The 2004 Revision
※「国勢調査」及び人口問題研究所調べ
このような問題の解決を通じて、世界にモデルを提供する国となる、それこそが、これからの日本の使命となります。日本は戦後、先進国、特にアメリカの後ろ姿を見ながら、がむしゃらにがんばってきました。しかしながら、1980年代の後半から目標を失い(ジャパン アズ NO1と言われた頃)、バブルの崩壊(1990年代)からも容易に抜け出せませんでした。そして今回の金融バブルの崩壊と世界的な不況です。
世界経済の枠組みが大きく変わらざるを得ない背景は、世界人口の爆発にあります。【図2】第二次世界大戦後から大規模な戦争がなく、地域での紛争も一部を除いて徐々に収束し、医療技術も飛躍的に向上し、開発途上国も先進国の援助によって食糧不足や医師不足が解消されつつあります。結果、開発途上国では人口の急増が起こり、先進国では長寿となり世界の人口が急増しました。更に、生活レベルの向上への欲求が、個々の消費を大きく引き上げました。
個々の消費上昇×人口急増=あらゆるモノの消費と不足
という結果になりました。
これは、消費天国×人口過密国=日本。まさに「課題先進国・日本」です。
【図2】世界の人口
※統計局 世界の人口推移から
しかし既に日本は「課題解決先進国」でもあります。火力発電所から排出される硫黄酸化物(SOx)の国際比較【図3】ですが、日本は世界に対して圧倒的に優位です。みなさんの原風景が激変していることを考えても納得できるでしょう。東京湾の魚が食べられるというのはここ十数年のことで、かつては工業排水によるヘドロでとても魚の住む海ではありませんでした。日本各地の工場がある地域の海や川でも同じでした。それが今ではきれいな海や川を取り戻しています。日本の持つ課題解決能力はすごいものがあります。一部の大企業だけでなく中小企業や地方自治体とが一体となって推進した成果です。
このような日本の技術を海外へもっともっとアピールしビジネスモデル化する。また今後大きな課題となる「超高齢化社会」の解決など世界の中で、日本の企業(特に中小企業)が果たす役割は、膨らむことがあっても縮小することはありません。例えば「住宅の面でも日本を含めたアジア地域は『アジア・モンスーン気候』です。日本の高度な建築技術でアジアモンスーン気候に合った技術を確立し更に地域にあったものに変えていく、それだけでも官民一体となって行う一大テーマとなるでしょう。」(小宮山宏氏)
今日本で起きていることを真摯な姿勢で解決する。それがこれからの世界経済の見本であり、日本のビジネスマン、経営者の役割といえるでしょう。
【図3】火力発電所からのSOx排出原単位の国際比較(2002年)
※小宮山宏東京大学総長講演資料 ※出典:東京電力ホームページ