文●マーケティングコンサルタント 中安 康
世界の景気後退が深刻化し、1929年世界恐慌以来の不況に匹敵するといわれています。各国政府の財政金融支援にもかかわらず、先行きが見えない状況が続いています。民間企業にとっては、不要不急の出費を抑え、いかに売上を維持するか、人件費を削ってでも利益を確保するかということが優先課題となっているようです。 ただし各企業がそういう行動を取れば取るほど、各企業の思惑と反対にますます経済は縮小し、景気は悪くなります。そのようなときには民間企業の努力だけでは難しい局面が訪れます。これからしばらくは「大きな政府」の時代になるでしょう。1929年の大不況のときにアメリカのルーズベルト大統領は「ニューディール政策」によって大規模な公共事業を実施しました。今回も欧米が中心となって大規模な景気浮揚策を提唱しようとしています。
地球温暖化の問題も深刻です
株式市場が記録的な下落を見せ、世界的な企業が危機におちいる中で見過ごされていますが、温室効果ガスの排出量もまた記録を更新しています。11月の公表数値では、CO2は、2007年に前年から0.5%増加しました。25年前と比べると40%近くも増加しているというのです。待ったなしの状況になりつつあります。
金融危機と環境問題の両方を解決
そのような中でCO2排出の少ない再生可能(自然)エネルギー開発に大量の投資を行うことで、環境問題を解決し、経済と金融システムを立て直す一挙両得の機会ととらえる動きがでています。それが環境対策を柱とした「グリーン・ニューディール」です。既にドイツでは、代替エネルギーを固定価格で政府が買い上げ、現状では供給コストの高い代替エネルギーの普及を政府が中心となって促進しています。
このような動きはヨーロッパを中心に各国に広がっています。既に代替エネルギーへの投資は昨年約15兆円規模になり金融危機にも係わらず縮小していません。低く見積もっても2020年には150兆円規模になるといわれています。これは今、大きな岐路に立たされている自動車産業の規模と同じ規模になります。ましてや各国が「グリーン・ニューディール」に真剣に取り組むと150兆円という規模はもっと早く達成されるでしょう。そのためには、「国内のエネルギー構造を再生可能エネルギーへとドラスチックに転換する枠組みを作り、そこへ投資が向かう構造を作る必要があります。国の政策のてこ入れが必要なのです。」(環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長)。日本は、残念ながら官僚機構と大企業の「私」優先体質からドラスチックな転換ができていませんが、世界の潮流は間違いなく「グリーン・ニューディール」の方向へ進み始めています。
新しい投資と価値観の創出の年
「環境問題の解決を実行する=大規模な事業を起こす」。メインは環境対応機器の開発と製造、設置かもしれませんが、例えば、砂漠を緑に変えることでCO2を地球規模で吸収する、都市の緑化の推進によるCO2の吸収と同時に都市生活のスローライフ化、脱自動車によるエリア経済の活性化など、大規模な投資と価値観の転換により全く新しい需要とライフスタイルとが創出されます。2009年が「グリーン・ニューディール」とそれに続く価値観の大きな変化の年になる予感がします。
【脚注】
※“New Deal”とは、
トランプゲームなどで親がカードを配り直すことを言い、それに例えて政府が新たな経済政策を通じて国家の富を国民全体に配り直すことを意味している。(フリー百科事典ウィキペディアより)
※代替エネルギーとは、
風力、太陽光発電、バイオ燃料、バイオマスと廃棄物発電等です。風力(46%)、太陽光発電(21%)、バイオ燃料(20%)の三つで投資の87%を占めています。