文●マーケティングコンサルタント 中安 康
シブヤ大学は、特定非営利活動法人として2006年9月開校。渋谷全体をキャンパスにして、毎月第3土曜日に様々な講座を開く。2年半で約200講座、生徒はのべで1万人を超える。日本文化、福祉、環境、コミュニケーションの授業のほかに、郊外の農村などの体験学習や、ゼミやサークルもある。実際の校舎はなく、様々な場所=渋谷区の施設、美術館、映画館、カフェ、公園などで授業を実施。参加費は実費を除いて無料。2008年10月には「京都カラスマ大学」という姉妹校が誕生。また、2009年2月「シブヤ大学表参道校」や「シブヤ大学恵比寿校」がスタートしている。
キャンパスというフィールドを、街まで拡大すると、今までありふれた景色だったものが全て教材に見えてきます。そこには、既に先生が存在していて、そのことに興味を持ちそうな生徒も見えてきます。教室と呼べる場所もそこらじゅうにあります。
いつのまにか私たちの世界は、隣の人が他人であることが当たり前の時代になりました。それをコミュニケーションの崩壊とせずに、新たなコミュニケーション構築の機会として見ると、全く新しい社会の始まりであることが解ります。今の現象をあるがままにとらえ、コミュニケーションのとり方からはじめる。街を教材、活動している人を先生にして、互いが学ぶということでコミュニケーションをスタートする。そんな風に「シブヤ大学」を見ると少しずついろんなことが解って来ます。 「シブヤ大学」では様々な授業が行われています。渋谷という地域と関係するところでは、「明治神宮の森を管理している人が先生になって、明治神宮の森を歩きながら、既に100年前『100年経ったら自然の森に還る森をつくるにはどうしたらいいか』を考えてこうこうした、という話を聞く。また、「夜間参拝」という授業を行い、真っ暗な中で鎮魂(ちんこん)を体験し無音状態になると不思議とキーンと言う音がすることをはじめて知る。」(学長の左京泰明さんの話から抜粋)など、小学校時代の社会体験学習のようでもあり、ワクワクして目を輝かせている参加者の顔が目に見えます。授業を行った後では、もっと詳しく知りたいという人たちが集まって、大学の授業とは別にゼミやサークルを作って活動を始めます。その他の授業には、日赤医療センターの先生の「緩和ケアの話」、保母さんならではの「親子のコミュニケーションの話」、円山町の「芸者さんの話」などがあります。
この「シブヤ大学」の事例をベースにすると、生活を豊かにする方法はいくらでもあることが解ります。街や店の奥行・歴史を知ることで周りの風景が愛着の風景となり、見慣れた会社やお店を単なる景色ではなく、人の想いや活動としてとらえることができます。そして何よりも、そこで知り合った人と新たなコミュニティが生まれます。
この背景には、社会の変化=高度成長時代の狩猟型から成熟時代の農耕型へと変化し、よりつながりを持ちたいと考える人が増えていると見ることが出来ます。
更に、全く新しい切り口を提供することで、本来生涯学習という場にはシニアが中心という概念を破り、このシブヤ大学は、20代、30代が80%を占めています。
シブヤ大学の事例は、街のコミュニティづくりにヒントを提供してくれます。 また、企業が、地域との連携を強化(CSR、人材の確保等で今後ますます重要)するとき、「学び」をキーにすることが、新たなパワーを生み出す原動力となることを示唆(しさ)しています。