文●マーケティングコンサルタント 中安 康
ES(従業員満足)とCS(お客様満足)は、単なるうたい文句ではなく「企業として最も大事な指標」であることをネッツ南国の事例は教えてくれます。 ネッツ南国は、高知県にあるトヨタ系の販売会社です。「販売会社でありながら、ノルマがない、ショールームに車を置いていない、しかしこの厳しい状況下で業績は過去最高、しかもトヨタの販売会社の中でも群を抜く顧客満足度の高い会社」として有名です。
ネッツ南国創業者の横田会長の企業理念は、「人間性尊重の理念に基づき、第一にES(従業員満足)を追求する。そして、その従業員が求める私たちのあるべき姿として、CS(お客様満足)を追求し続ける。」です。
ネッツ南国は、「ショールームは既存のお客さまを基本に」という発想から、車が入店すると、車のナンバープレートを見てお客様名を検索し、お客様が車から降りたとたんに、お名前を呼んでお迎えします。
ショールームは、自動車を置かずに、お客様が飲み物や軽い食事が出来る大きな喫茶スペースにしています。軽食などは、安価ですがきちんと代金をいただくことで、用事がなくてもショールームに気軽に立寄ることが出来る工夫をしています。
修理工場との間はガラス張りで、お客様がマイカーの修理や点検状況を見ることが出来、担当のサービスマンが来て、自動車の状態を説明します。接客する女子社員は、外部講師の指導により徹底したマナー教育を積んでいます。営業社員とショールームの様々なスタッフとの連携で、ショールームが売る場ではなく、お客様の満足度向上の場として機能しています。
上記のように「おもてなし」の実践は購入後にこそ必要です。お客様がファン化しリピーターとなり、最も購入確率の高い口コミという販売チャンスを創っていきます。
日本は既に高度成長を終え成熟社会に入りました。欲しくてたまらない新製品がある時代ではありません。特に今回のような不況になると、買い替えサイクルも伸びてきます。購入することによって得られる新たなメリット、購入することで実現できる生活シーンと同時に、お客様とのコミュニケーションとアフターサービスが重要となります。新規顧客を開拓する以上に、既存顧客のファン化が大きなテーマとなります。
それでは、お客様が満足されリピーターとなるためには何が必要なのでしょうか?
ネッツ南国の横田会長は「自分の成長を実感するのは、待遇以上に上司や同僚からの信頼やお客様からの感謝。それが、仕事への意欲につながる」と言います。そして、ESがCSに与える影響については「社員自身が、仕事や会社に満足していないと、心からお客様に喜ばれたい、満足していただきたいと思わない」と、CSとESは相互に影響すると説明しています。
上記の事例のように、社員同士のチームプレー、お客様からの感謝の声により、社員自らがもう一段上のおもてなしを目指す姿勢へと変わります。
また、ネッツ南国では、インターネットを通じて毎日のようにショールームの情報を様々な社員が掲載しています。そのことで更にお客様との心の垣根を取り払っていき、「継続利用したい」気持ちを醸成します。
このような企業風土を創ることは、経営者の姿勢、実行力、教育、目標等様々な要素があって初めて成功します。単に事実やノウハウをまねるだけでは成功しません。 ネッツ南国の場合は、社内の一層の意識改革のために「日本経営品質賞」に注目し、2000年より取り組みを始めました。それは、社内の自己評価はあっても経営品質賞という非常に厳しい客観評価により、様々な指摘をされることで、強化すべきことが具体的に見え、それを改善することが新たな経営目標になることを狙っているのです。2002年度には同賞を受賞し、経営品質向上活動の一層の推進力となっています。企業風土を創ることは経営者の思いと、それを受け止めて実行する社員とそして常に客観的な尺度で調整する外部スタッフや基準(審査・資格等)が必要でしょう。