文●代表 宍戸賢輔(公認会計士・税理士・MBA)
■「有効需要の理論」
財政政策の理論的根拠として、「有効需要の理論」(ケインズ政策)があります。これは、「供給量は需要量によって決定される」というものです。
例えば、不景気になって先行きに不安があると、国民は消費を減らし、企業は設備投資を控えることになります。その結果、企業業績が悪化して、失業が増えることになるでしょう。
この理論では、こうした状況に対して不足分の「需要を増やせば」景気が回復することになります。先の麻生政権の15兆円余の追加経済対策は、こうした論拠に基づくものでした。
■「新自由主義」の誕生と破綻
実は、「有効需要の理論」は、70年代のオイルショック時に、その有効性が否定された歴史がありました。
時のサッチャー氏は、「サッチャー改革」を実施して、ケインズ政策と決別し、全世界的に影響を与えました。
その骨子は、政府の財政政策を極力減らし、経済を「市場」に委ね、政策としては「金融政策」を中心としたものです。これが「新自由主義」の嚆矢(こうし)です。
具体的には、国有企業民営化、金融規制緩和、税制改革でした。換言すれば「小さな政府」と「競争促進」が、経済政策の主題となります。
しかし「市場」と「金融政策」に大きく依存し、際限のない人間の欲望を見過ごした結果、未曾有の世界的な金融危機が発生しました。これは、実物経済にも大きな影響を及ぼし、再度「有効需要の理論」が不可欠な状況が生まれました。
■ 明確な国家ビジョンの必要性
ケインズのいう「有効需要の理論」の真意はバラマキ的な財政支出ではなく、経済の「呼び水」となる政策です。更に、未来の国家ビジョンにマッチした分野や技術や産業を優先すべきです。
従って、前政権のエコカーやエコポイントは環境志向や技術開発とマッチしており、効果があると思いますが、利用価値の少ない地方空港や箱だけのアニメの殿堂の建設は行うべきではないでしょう。
一方、民主党の政策も、無駄の削減以外は子供手当、農家の所得補償、高速道路無料化、時給一〇〇〇円法制化など「バラマキ」的政策が多く、将来の国家ビジョンやどうして富を創造するのか、という点が見えてきません。これを明確にすることが重要でしょう。
バラマキも、富があればこそできることだと思うのです。
※プレジデント09/10/05号「経済学の知恵で仕事の難問を解く」の中で「総需要」斎藤精一郎氏、「新自由主義」野口悠紀雄氏を参考にしました。
弊社発行:成長企業のための情報誌「グローイングカンパニー」
2009年11月号(VOL 112)より
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